手話言語条例の目的と目指すべき社会(鳥取県と神戸市の条例より)

今、全国では次々と手話言語条例が制定されています。その目的と目指すべき社会について、全国で初めて手話言語条例を制定した鳥取県と、前文に「手話はいのち」と謳っている神戸市の条例から紹介します。

 

鳥取県手話言語条例 

 附則

 ろう者は、物の名前、抽象的な概念等を手指の動きや表情を使って視覚的に表現する手話を音声の代わりに用いて、思考と意思疎通を行っている。

 わが国の手話は、明治時代に始まり、ろう者の間で大切に受け継がれ、発展してきた。ところが、明治13年にイタリアのミラノで開催された国際会議において、ろう教育では読唇と発声訓練を中心とする口話法を教えることが決議された。それを受けて、わが国でもろう教育では口話法が用いられるようになり、昭和8年にはろう学校での手話の使用が事実上禁止されるに至った。これにより、ろう者は口話法を押し付けられることになり、ろう者の尊厳は著しく傷付けられてしまった。

 その後、平成18年に国際連合総会で採択された障害者の権利に関する条約では、言語には手話その他の非音声言語を含むことが明記され、憲法や法律に手話を規定する国が増えている。また、明治13年の決議も、平成22年にカナダのバンクーバーで開催された国際会議で撤廃されており、ろう者が手話を大切にしているとの認識は広まりつつある。

 しかし、わが国は、障害者の権利に関する条約を未だ批准しておらず、手話に対する理解も不十分である。そして、手話を理解する人が少なく、ろう者が情報を入手したり、ろう者以外の者と意思疎通を図ることが容易ではないことが、日常生活、社会生活を送る上での苦労やろう者に対する偏見の原因となっている。

 鳥取県は、障がい者への理解と共生を県民運動として推進するあいサポート運動の発祥の地である。あいサポート運動のスローガンは「障がいを知り、共に生きる」であり、ろう者とろう者以外の者とが意思疎通を活発にすることがその出発点である。

 手話がろう者とろう者以外の者とのかけ橋となり、ろう者の人権が尊重され、ろう者とろう者以外の者が互いを理解し共生する社会を築くため、この条例を制定する。

 

第1章 総則

(目的)

第1条 この条例は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話の普及に関し基本理念を定め、県、市町村、県民及び事業者の責務及び役割を明らかにするとともに、手話の普及のための施策の総合的かつ計画的な推進に必要な基本的事項を定め、もってろう者とろう者以外の者が共生することのできる地域社会を実現することを目的とする。

(手話の意義)

第2条  手話は、独自の言語体系を有する文化的所産であって、ろう者が知的で心豊かな社会生活を営むために大切に受け継いできたものであることを理解しなければならない。

(基本理念)

第3条 手話の普及は、ろう者とろう者以外の者が相互の違いを理解し、その個性と人格を互いに尊重することを基本として行われなければならない。

 

(全文はこちら➡)pdf鳥取県手話言語条例.pdf (0.1MB)

 

 

鳥取県の条例では「ろう者が手話を大切にしている」と表現しています。そして「手話が言語であるとの認識に基づき」手話の普及をすることでろう者とろう者以外の者の共生社会の実現を目的としているのです。

 

 

手話が「ろう者のいのち」と謳っている手話言語条例があります。

 

神戸市みんなの手話言語条例

 手話は、ろう者がコミュニケーションを図り、社会活動に参加し、人間関係を育み、成長していくために使われてきました 。手話は、手指や体の動き、表情を使って視覚的に表現する言語として、ろう者にとって豊かな社会生活を営むために大切に受け継がれてきたものです 。
 しかし、手話は言語として認知されず、かつて多くのろう学校で手話が禁止されていました 。そのため、様々な場面でろう者は多くの不便や不安を感じながら生活してきました。
手話の使用が制限される状況において、なお、手話が発展してきたのは、手話がろう者の「アイデンティティー」であり、「いのち」であったからです。
 こうした中、障害者の権利に関する条約及び障害者基本法において、手話は言語として位置付けられました。今後は、手話を必要とする全ての人が、いつでもどこでも容易に情報を得ることができ、コミュニケーションを十分に図ることができる社会を構築していかなければなりません 。
 神戸市は、昭和52年に全国に先駆けて神戸市民の福祉をまもる条例を制定し、市民及び事業者と共に誇り高い福祉都市の実現に向け取り組んできました。
 世界で手話が言語であると位置付けられた今、神戸市は、市民みんなの手話への理解の促進に努め、手話を日常的に使用できる環境を整えることにより、ろう者もろう者以外の者も互いに心と心が触れ合い、通じ合うまちを目指して、この条例を定めます。
(目的)
第 1 条 この条例は、手話への理解の促進及び手話の普及に関し、基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにするとともに、手話に関する施策に係る基本的事項を定めることにより、手話に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もってろう者及びろう者以外の者が共生する地域社会を実現することを目的とする。
(基本理念)
第 2 条 手話への理解の促進及び手話の普及は、手話が言語であること及びろう者が手話によりコミュニケーションを図る権利を有することを前提として、ろう者及びろう者以外の者が、相互に人格と個性を尊重することを 基本として行わなければならない

 

 

(全文はこちら➡)pdf 神戸市手話言語条例.pdf (0.18MB)

 

条例を制定し手話の普及を通じて、ろう者以外の者が、相互に人格と個性を尊重し合う共生社会を目指しているのです。